京都に暮らし、日本の伝統工芸を世界に伝える若き蒔絵師。その美を捉える眼差しは、重なる年月によって磨きあげられてゆく京都に暮らし、日本の伝統工芸を世界に伝える若き蒔絵師。その美を捉える眼差しは、重なる年月によって磨きあげられてゆく

よごれながらも自分の道を拓くために⽇々頑張っている30歳の挑戦者たち。
この連載では、彼らの挑戦を紹介します。

伝統の蒔絵の若き担い手として生きる

ー 京都の二条城前の工房で、お父様とともに、蒔絵師としてお仕事をされていらっしゃいますね。蒔絵は、時代の変化の中でどのように位置付けられてきたのでしょうか。

蒔絵師の仕事は、主に漆器類に、漆と金粉を使って絵や文字を施すことで、その歴史は戦国時代にまで遡ります。千利休の時代に洗練され、江戸時代には海外の貴族のもとにも輸出されるようになりました。昔は今のようにものが溢れていなかったので、「いかに大事に使い続けられるか」ということを前提にしたものづくりがされていました。漆は美しさのほかに、防水加工の役割も果たしているのです。

ー そんな中、下出さんはヨーロッパで金継ぎ技術を伝えるなど、国際的にも活躍していらっしゃいます。

高校時代に、留学などの英会話教育を受けさせてもらったんです。海外の方と関わりを持つようになると、自分にしか話せないことを伝えたいと考えるようになりました。私にとってそれは、この家で知った蒔絵の面白さや、日本人らしい文化とか考え方とか、ものをつくる背景にあるすべてでした。「こんなにかっこいい職業はない」と思うようになりましたね。

「見えない」領域に挑む

ー 蒔絵には多くの手順があり、その一つひとつが、驚くほどに精巧ですね。

蒔絵には、何度も漆の塗りを重ね、筆を入れて、磨きをかけて仕上げいく幾つもの工程があります。そして、道具や材料を大切にすることを、いろいろな所作の中で厳しく教えられます。

どの道具や材料を選ぶかの見極めも難しく、はじめは師匠に適したものを教えてもらうのですが、経験を重ね、他の方法も試してみて失敗をすることで、ようやくその理由がわかるようになってくるのです。

道具は自然界でとれたものを使っている。例えば根朱筆(ねじふで)と呼ばれる筆は、裏から毛をひっぱることで職人の手に合わせた道具になる。

粉も粒の大きさや形の違いで何十もの種類がある。

ー 優れた作品をつくるとは、どんなことを言うのでしょうか?

日本の職人のすごいところは、使い手の気づかないような細部にまで目を配り、こだわりを持つ、力強さだと思います。お店に並んでいる時にはわからないけれど、何十年も使われたあとに、ずっと美しい状態を保っていられる技術が施されていることがわかる。そういう見えないところへのこだわりが、日本人らしいと感じるんです。

この歳になって気づくのは、2年前くらいの作品は、だいたい、もう見るのも嫌なんです。振り返ると、まだまだ未完のものを完成したと思い込んでいたと思うんですけれど、つくった時には気づけていないんですね。

29歳の時に全日本煎茶道連盟賞を受賞した煎茶道具<右>、
30歳で新たな技法習得のため制作した平棗(ひらなつめ)<左>。

人間の感性ってずっと成長し続けるものやと思うんです。死ぬまで最高のものを目指し続けたいですし、このものづくりの面白さを伝えて続けていける作り手になりたいです。

西洋のデザインをモチーフにした作品。「日本人の目を通して、新しいデザインが生まれることが面白い」と新しいテーマに挑戦し続けている。

美は、ひとりの手では完成しない

ー 下出さんにとって、「汚れ」とは?

父の、漆の汚れと匂いが染みついた手を見てすごいなと思って育ってきた記憶がずっとあるんです。働く職人の誇りっていうのかな。よごれないことよりも、大事なものを持っているというか。

この仕事をすればするほど、日本はなんて美しい国なのだろうと思うんです。目に見えないものも大切にしたり、割れたお皿に金継ぎを施して、それを美しいと感じる。直したからこそ、そこにある思い出も含めて、特別な存在になると感じている。それは“Beautiful”を超えた美の感覚です。

私には、日本人の感じる美というのは、「すべての手に宿っている」という気持ちがあります。日本の美しさは、みんなが日本人らしく暮らしている中で生まれてくる土地の空気であり、生き方にあると思うのです。私がつくった作品も、それを使う方の精神性だとか、こころ配りだとか、置かれる空間とか、そういうのがあってはじめて完成する美で、自分のなかだけでは到底完結しきれません。

自分がこうして京都に暮らす蒔絵師として仕事をさせてもらうことに意味があると思うし、そういった日本人の持つ美しさを、仕事を通じて感じて欲しいと思っています。

“汚れは、日本の“美”を磨き極めるすべての手に宿るもの”

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